大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和57年(特わ)13号 判決 1982年5月17日

(被告人の表示)

(一)

本店所在地 東京都足立区江北五丁目一〇番九号

有限会社梅原工務店

(右代表者代表取締役梅原俊雄)

(二)

本籍 東京都足立区江北二丁目二四五番地

住居

同区江北三丁目五番一二号

会社役員

梅原俊雄

昭和一四年三月一一日生

主文

1  被告人有限会社梅原工務店を罰金一、六〇〇万円に、被告人梅原俊雄を懲役一年六月にそれぞれ処する。

2  被告人梅原俊雄に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人有限会社梅原工務店(以下「被告会社」という。)は、東京都足立区江北五丁目一〇番九号に本店を置き、建築業、不動産の売買、貸金業等を行う資本金一、〇〇〇万円(昭和五五年一一月二〇日以前は五〇万円)の有限会社であり、被告人梅原俊雄は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、

第一  被告人梅原は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、不動産売上収入・貸付金利息収入の除外等の方法により所得を秘匿したうえ、

一  同五三年七月一日から同五四年六月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が四、四一一万七、四〇〇円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同年八月三〇日同区栗原三丁目一〇番一六号所在の所轄西新井税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が六〇六万七、五五五円でこれに対する法人税額が一四一万六、九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五七年押第四七一号の1)を提出してそのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額二、三八八万八、四〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)と右申告税額との差額二、二四七万一、五〇〇円を免れ

二  同五四年七月一日から同五五年六月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が五、〇六七万二、五九九円(別紙(二)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同年八月二九日、前記西新井税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二二六万四、六五三円でこれに対する法人税額が二四九万一、一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同押号の2)を提出してそのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額三、二六二万九、二〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)と右申告税額との差額三、〇一三万八、一〇〇円を免れ

第二  被告人梅原は、被告会社の業務に関し、同五四年一月一七日ころから同五五年二月二八日ころまでの間、前記本店において、別紙(四)貸付関係一覧表記載のとおり前後六四回にわたり、平岡建設株式会社ほか二名に対し、名目額合計一億一、一二〇万円を貸付けるに当たり、同社らから一日当たり〇・三パーセントの割合による法定利息合計二、一一一万八、〇九一円を五九一万六、三〇九円超える合計二、七〇三万四、四〇〇円の利息を受領し

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全般につき

一  被告人の当公判廷における供述及び第一回公判調書中の供述部分並びに検察官に対する供述調書四通(昭和五七年五月一日付のうち八枚つづりのもの、同年一一月七日付、同月一四日付及び同月一九日付のもの)

一  木村光江の検察官に対する供述調書

一  本山辰夫、平岡義光(二通)及び伊藤忍の収税官吏に対する各質問てん末書

一  東京法務局城北出張所登記官作成の登記簿謄本

判示第一の一、二の事実ことに過少申告の事実及び別紙(一)、(二)修正損益計算書の公表金額につき

一  押収してある昭和五四年六月期及び同五五年六月期法人税の確定申告書二袋(昭和五七年押第四七一号の1、2)

判示第一の一、二の事実ことに別紙(一)、(二)修正損益計算書中の各当期増減金額欄記載の内容につき

一  検察官久保裕、弁護人高木国雄、同平松敏則、被告会社代表者代表取締役梅原俊雄、被告人梅原俊雄作成の合意書面

一  収税官吏作成の(不動産)利益調整額調査書(別紙(一)、(二)修正損益計算書の各勘定科目中<3>及び<4>)

一  収税官吏作成の建売住宅収入調査書 (同<3>)

一  収税官吏作成の土地売却収入調査書 (同<4>)

一  収税官吏作成の利益分配金収入調査書 (同<5>)

一  検察官作成の捜査報告書 (同<6>)

一  検察事務官作成の捜査報告書 (同<46>)

一  押収してある手形受払帳一冊(前同押号の3。同<6>)

判示第一の一、二の事実ことに別紙(三)税額計算書の土地譲渡利益金額及び土地譲渡税額につき

一  収税官吏作成の土地譲渡税額調査書

判示第二の各事実につき

一  検察官作成の前記捜査報告書

一  押収してある前記手形受払帳一冊

(法令の適用)

一  罰条

(一)  被告会社

(1) 判示第一の一、二の各事実につき昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一六四条一項、一五九条一項、二項

(2) 判示節二の別紙(四)貸付関係一覧表の各事実につき出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律一三条一項、五条一項

(二)  被告人梅原

(1) 判示第一の一、二の各事実につき行為時において右改正前の法人税法一五九条一項、裁判時において改正後の法人税法一五九条一項(刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑による。)

(2) 判示第二の別紙(四)貸付関係一覧表の各事実につき出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律一三条一項、五条一項

二  刑種の選択

被告人梅原につき、いずれも懲役刑選択

三  併合罪の処理

(一)  被告会社につき、刑法四五条前段、四八条二項

(二)  被告人梅原につき、刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第一の二の罪の刑に加重)

四  刑の執行猶予

被告人梅原につき、刑法二五条一項

(量刑の理由)

本件のうち判示第一の各事実は、建築業、不動産の売買、貸金業等を営む被告会社が二事業年度にわたり合計五、二六〇万円余にのぼる法人税をほ脱したという事案であって、ほ脱額もかなり高額であるうえ、正規の法人税額に対するほ脱の割合をみても、二事業年度について、いずれも九〇パーセントを超え、著しい高率を示している。被告人梅原は、大工の修業中及び独立直後に味わった経済的苦況の経験から、事業を拡大し資産を蓄積するため、本件を行なったものと認められるが、その目的を達成するための手段として本件におけるように利益を圧縮するなどして裏資金を作り、これを更に貸金の事業や投資に運用してその利息や利益分配金等を秘匿するなどの行為が許されないことはもちろんであって、本件に至る経緯ないし動機に関し格別諒とすべき事情は認められない。また、ほ脱の方法ないし態様をみても、同被告人は取引の当初から利益を隠ぺいする意図のもとに相手方と通謀して二重契約を結ぶなどして不動産取引による利益の相当額を圧縮し、しかも前記のように裏金を運用して得た利息及び利益分配金についてはその全額を秘匿した結果、ついには公表上赤字決算となる公算となるや、脱税の発覚を防止するため翌期分の不動産取引による利益を当期分に繰上計上した程であって、その違反の態様は悪質であり、被告人らの納税意識は希薄であるといわざるを得ない。次に、判示第二の各事実は、貸金業の届出をしていない被告会社が前記脱税によって得た資金等を主として天引の方法により高利で被告人梅原の知人に貸し付けたという事案であって、犯行回数は短期間に多数回にわたっているほか、制限利息超過の程度も高く、利得も高額であり、犯情は軽視できないものがある。

しかしながら、反面において、被告人梅原は本件発覚後その非を悟り本件の捜査、公判を通じて犯罪事実を素直に認め、また、新たに顧問税理士を迎え、被告会社のこれまでのずさんな会計処理の態勢を改善し、公正な納税申告を確約しているほか、前記のとおり本件各犯行の温床ともなっていた貸金業を今後廃止する旨を当公判廷において述べるなど再犯防止策を講じたうえ反省の態度を示している。また、被告会社においては本件各事業年度分の所得につき修正申告をしたうえ地方税、付帯税を含め納税を完了している一方、本件発覚後被告人は自主的に不動産営業から遠ざかっており、本件事業年度後においても前記貸付金につき回収が困難となる等の事情が生じたこともあって被告人らの経済状態は必ずしも余裕があるともいえない状況にあり、これらは本件後に生じた情状として斟酌すべきである。以上のほか被告人梅原の知人らが今後同被告人を指導監督していくことを誓約していること、同被告人には傷害による罰金刑のほかさしたる前科がないこと、同被告人の家庭の状況等諸般の情状を総合考慮し、それぞれ主文のとおり刑を量定した次第である。

(求刑 被告会社罰金一、八〇〇万円、被告人梅原懲役一年六月)

よって、主文のとおり判決する。

出席検察官 神宮寿雄

弁護人 高木国雄(主任)・平松敏則

(裁判長裁判官 小泉祐康 裁判官 羽渕清司 裁判官 園部秀穂)

別紙(一) 修正損益計算書

有限会社梅原工務店

自 昭和53年7月1日

至 昭和54年6月30日

<省略>

別紙(二) 修正損益計算書

有限会社梅原工務店

自 昭和54年7月1日

至 昭和55年6月30日

<省略>

別紙(三)

税額計算書

有限会社梅原工務店

<省略>

別紙(四)

貸付関係一覧表

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例